夕暮電柱

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窓越しに見えるのは

窓から望む一世紀

白い一軒家があった
壁、玄関、屋根、敷かれた砂利道から塗装されたコンクリートの床、そして郵便受けも例外なく白に染まっていた。
色以外で特筆することはあまりない、強いて言うなら二階建てで、都会にあるモデルハウスをそのままコピー&ペーストした量産型の産物と呼ぶだろう。

若い男女が荷物を運んでいる、段ボールだ、数がとても多い。時おり抱き合いお互いに言葉で愛を交わし、他者が見ればため息をつきたくなるほどに密接だ。
二人はやがて家の中へ、きっちりと揃えられた革靴と、脱ぎ散らかされた赤いハイヒールが玄関に転がる。
若さと勢いで浮かされた下の心が止まらない二人
悩ましい声が薄らと聞こえている。幸いに周りに住宅が無いのが救いか。
白い雨戸が隅に寄せられて大きなガラスの扉が現れたのは夕方になってからだった。

ガラス窓の向こうはリビング、そして離れた島、アイランドキッチン。
沢山の手料理が並ぶ、どれもこれも彩り豊かでオシャレな、そしてそれを口に運ぶ男の破顔が出来栄えを表していた。

季節が巡る

お腹を膨らませた女と愛おしそうにお腹を撫でる男。
リビングは既に子供専用のおもちゃがいくつかある。

月が変わる

夜中にサイレンが響く、空いた窓から女が男らに車へと運ばれていく、あの男の姿はない、代わりに縁側に残る小さな水溜まりが月明かりを照らした。

日が暮れる

木製のイスにかけた男が隣の女を宥めている。
足元に壊れたガタクタとボロボロの絵本。
目を腫らして泣いていた、お腹はもう膨らんでいない。

年が経つ

カーテン越しに映る二人と小さな影が二つ、暖色に照らされた家族の一時。同年に追刻された表札には二つの名前。

時を経る

壮年夫婦と若い夫婦、元気な幼い男の子がくたびれた男にまたがりおもちゃの剣を振り回す。適度な動きで馬を再現しつつも落ちないように気を配る。

針が進む

壮年の夫婦が喪服を着て中年の男と会話をしている。
家の外壁は傷だらけで、柱には車がぶつかった跡が残っている。何もなかった近所は似たような家が立ち並び、五十メートルも歩けば商店街があり、キラキラと光る光化学の小さな電球が夜の街を華やかな場所へと変貌させた。

一世紀を迎える

もうそこに白い一軒家は無かった。
大きな企業に土地ごと買収されたからだ。
ガタが来たボロボロの家を誰が使うものか、結局は取り壊され立体駐車場の一部がそこに在る。
形ある物は自然に淘汰される、人が作りし物もまた人の手で淘汰されただ消えていくのみ。

その歴史を見守っていた大木は物言わずに今日まで生きている。明日切り倒されるとも知らずに。また一つ大切な風景が、何かが消えていく。
なにも悲しいことばかりではない、何かが終わればまた何かが始まる。世の中の輪廻。
そして新しい世代へと進むのだ。

おわり

7/1/2024, 5:56:23 PM