「ごめんね」
その言葉が聞きたいわけでも、なんでもない。じゃあ、私はどんな言葉をかけてもらったら目の前にいる彼を許せるのだろう。
「怒ってるよね…?」
私の顔色を窺いながらも、彼は申し訳なさそうな顔をしているのには変わりない。そんな顔が見たいわけじゃない。ただ、笑って過ごしたいのに、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
「ごめんね、が聞きたいんじゃないの…そうじゃなくて、私もよく分からなくて…なんて言ったらいいか…」
目頭が熱くなる。泣きたいわけじゃないのに。込み上げてくる涙に耐えられない。右目から意識せず流れる涙は、悲しいから?怒っているから?自分自身でも全然分からない。
仕事が終わったら食べようと思っていたプリンは、帰宅して冷蔵庫を開いたらなくなっていて、空の容器がゴミ箱の中にあった。私よりも早く帰っていた彼に聞けば、小腹が空いて冷蔵庫を開けたらプリンがあって食べてしまったと言った。その『聞く』時の声色は、いつもの私よりもトーンは落ちていたのも分かる。あると思っていたものがなくなっていた虚無感を彼にぶつけるかのように。でも、その声のトーンによって、落ち込ませる気もない愛する彼を元気がなくさせてしまった。帰宅した直後はおかえりといつもと変わらない笑顔だったのに。プリンを食べてしまったのは彼だけど、私は罪悪感を抱く。
だって、私は彼の笑顔に助けられてきたから。
「ねぇ、名前?」
「…なに?」
「名前のことだからさ、むじいこと悩んでるのかもしれない。そう考えさせちゃったのも、プリン食べちゃったのも全部含めてごめんねって言いたいんだ」
何が、言いたいんだろう。
「…だから、ね?俺、コンビニでプリン買ってくるから待ってて!」
「え?」
「ふたつ!2つプリンを買ってくるからさ、一緒に食べよ?」
彼は2つを示すようにピースした手を私に見せてくる。眉はまだ下がったままだけど、彼はこんな悩む私と一緒に前に進もうとしてくれる。
「うん、一緒に食べよう。…私もコンビニ行く」
「夜遅いから手、繋いで行こ」
帰ってきたら、一緒に向かい合ってプリンを食べてる姿が目に浮かぶ。その時、私たちは2人で笑いあっている。
こうして彼は、いつも私を笑顔にさせてくれる。いつどんな時でも。そんな彼が大好き。
5/30/2022, 7:54:07 AM