あかるあかり

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『記憶』

 心臓を抉りぬくように、はらわたを引き摺り出すように、この身から記憶を捨て去ることができるなら、たぶん自分はそれを選ぶだろう。
 それは偽らざる自分の願いだ。

 そして同時に、そんなことはできないとも知っている。

 そう、不可能だと知っているから望むのだ。
 記憶を跡形もなく消すことができるなら、そんなことを選べるはずもない。

 パラドクス。いや、逆説でさえない。
 これは、ただのわがままだ。

 君に出逢わない運命があったなら。
 この恋に身を堕とすことを避けられるなら。
 そんな仮定を逃げ口に用意している。
 この恋を、叶わない恋を、記憶ごと葬りたい。そして葬れない。葬りたくない。

 失いたくて失えなくて失いたくない。

 手に入らないひとに今夜も恋をしている。

3/25/2025, 10:21:06 AM