家に帰ると、レコードが置いてあった。彼女がその横に座ってレコードから流れる音楽を聞いていた。
私が帰っている事に気づくと、「あら?帰ってきてたの。おかえりなさい」なんて言ったきりこちらに一瞥もよこさず、じっとレコードを見つめていた。
「何聞いてるの?」
と聞くと、こちらに目を向けずに
「ベートーヴェンの交響曲第7番」
と言った。
「クラシックかあ、僕はビートルズが好きだな。クイーンも」
と彼女に言った。けれど彼女は何も言い返さないので結局独り言を言ったようになってしまった。バツが悪くなって肩を竦めていたら彼女は急に振り返って私をじっと見つめた。彼女は
「とってもポピュラーね。どうせファンなんかじゃなくてただ数曲聞いただけでしょう? ビートルズも、クイーンも」
なんて言ってくる。思わず反論しようとしたけれど、良い返しが思いつかなかった。図星だったのだ。
「しっかしなんでそんなにクラシックが好きなんだ?別に、他の音楽だって嫌いじゃないだろ?」
「そうね。嫌いじゃないわ。でも、お歌がないのにこんなに魅力的な音楽、クラシックしか無いもの」
クラシックだって歌劇オペラごまんとあるじゃないか、と言いかけたが辞めた。
彼女はそんなこと承知しているだろう。その上で言い返すなんてきっとくだらないと呆れられる
今は、この、珍しくご機嫌な彼女を放って置いた方が良さそうだ
5/24/2025, 2:44:26 PM