雲見

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「待っててね、いつか迎えに来るから」
そう言って君は穏やかなあの波の中に溶けていった。

「行かないで」
その一言を私は言えなかった。

私は海が嫌いだ。それは君を奪ったからではない。
ただ単に怖いからだ。
底の見えない暗闇が怖いからだ。
ゆらゆらと手招きする海藻が怖いからだ。

だから君を追いかけることが出来なかった。止めることも出来なかった。
透明なはずの海水が、訳の分からないほど黒く見えた。
手招きするような海藻は、君を掴もうとしているように見えた。

怖くて足が動かなかった。

だから私は待ち続けよう。
海はとても怖くて入りたくはない。だから待ち続けよう。
私が死んでしまいそうになるような、嵐が来ようとも。
海がさらに怖くなるような、嵐が来ようとも。

君が私を攫いに来てくれるまで、恐怖なんて忘れてやろう。


【お題:嵐が来ようとも】

7/29/2024, 3:17:02 PM