ㅤ喋り終えたとき、私は肩で息をしていた。息継ぎをほとんどしていなかったらしい、指先がじんじんして、身体のあちこちが酸素を求めて細かく震えている気がした。
ㅤ時折小さな相槌を挟みながら黙って聞いていた相手が、机の上で組んでいた指先を解いた。
「話してくださってありがとう」
ㅤ直接関係ないこと言ってしまうかもしれないけど、浮かんだことをまずお伝えしてもいいですか、と訊かれ私は頷く。
「前に別の患者さんに言われたんですけどね、不安な気持ちは心が書いた手紙みたいだって」
ㅤ私は手元のメモに目を落とす。初めての場所で話す時は必ず準備しているものだ。意識していなかったのに、幾つも書かれた『不安』という文字が、ドキュメンタリー番組でよく見る演出のように、そこだけ明るく浮かび上がった。
「私はいま、あなたからお手紙をもらった気持ちになりました」
ㅤこの手紙を、ひとりで読むのは難しいかもしれない。良かったら、これから少しずつ、一緒に開いていきましょう。
ㅤこれは、私が私に宛てた手紙を、読み解いていく物語なんだ。そんなことが、なんの根拠もなくストンと私の中に落ちてきた瞬間だった。
『手紙を開くと』
5/6/2025, 9:38:11 AM