猪熊狐狗狸

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狭い四角で区切られた空を見上げる。
手も届かない高さの窓は大人の肩幅もなく、ご丁寧に格子が嵌め込まれている。
「俺たちの何がいけないってんだ…。」
飢えた腹をどうにかしなければ、ネズミの餌。
齧るのも苦痛な芋をくすねるために手を組んだ即席の兄弟達共々、大人達にねじ伏せられてこのザマだ。
一番小さなアリオーシュは、軽々蹴飛ばされてピクリともしなくなった。暴れて頭を叩きつけられたヨハンは、ビタビタと魚の様に跳ねていた。
意識が戻っただけまだマシなのかもしれないが、節々がギシギシと痛み、殊更に痛痒を訴える頬下で歯がぐらついている。
差し入れ口から転がされた臭い黒パンを齧ればいよいよ歯がもげるだろう。
無心のまま呆けていると、パタタと小さい羽音が空気の死んだ世界に響く。
格子の入った四角い空に、白い鳥。
「あ、あぁ…。」
思わず喘ぐ声に小さく跳ねながらこちらを見下す黒点は、キョトキョトと首を傾けたと思うと、

と羽を広げた。
瞬間、世界は止まった気がした。
空の透ける青を背景に、真っ白な翼。
両翼を広げ、高みから問いかけている気がした。
【私は行くよ。ついて来るかい?】
しかし、現実はそんなことはなく、羽音も残さず、薄汚れた少年を気にかける事なく、小鳥の日常を続けるために飛び去っていった。
「ーーー。」
去来したのは声にもならない慟哭。
ドブネズミと共に下水を寝床にし、泥水を啜って飢え苦しみ、今も戒めに囚われた自身があまりにも無様で。
「自由を望むかい?」
背後からの声。
「あの鳥のように」
振り向けば、修道服に身を包む黒染めの男がいた。
「ならば手を取りたまえ。一時の止まり木を与えよう。その後羽ばたけるかは君次第だ。」

テーマ:鳥のように

8/22/2024, 11:08:23 AM