タバコの煙がぷかぷかと空を揺蕩う様を、彼女は静かに眺めていた。
たった今、彼女自身が吐き出した煙だというのにも関わらず、まるで他人事のように虚ろな目で煙の行方を追いかける。
彼女の真っ黒な髪と真っ黒な目が、銀河の青白銀を反射して輝いていた。
彼女はこの宇宙船の中でも、特にガラスドームの展望デッキがお気に入りらしく、よく夜にひとりで座り込んでいる。
タバコ片手に座り込んで、哀しげな歌を口ずさんでいる夜もあったし、喫煙していないときは緩やかで優しい曲に合わせてまるで花びらのようにダンスを舞っていることもあった。
ガラス越しに見える膨大な小惑星帯の星の数を楽しそうに数えている夜もあった。さすがにその時は、なんて無意味な行為をしているんだ、と彼女の思考能力を疑った。
毎晩、特別に何か話したいことがあって彼女を訪ねるわけではない。
だからといって、とりとめのない話なんて生産性のない会話、僕はするつもりはない。
じゃあなぜ、僕は彼女のもとへ来てしまうのか。
この僕の行為に意味はあるのか。
人間は思考をやめた時に全てが終わる。
僕は、他のどんなことだって解けてしまうのに、彼女のことになると訳がわからなくなってしまう。
分からないことは、僕にとって実に不愉快だ。
眉をひそめた僕も、また、彼女の横顔とタバコの煙をただ静かに眺めている。
これが「とりとめのない話」というものか、と腑に落ちた。
12/17 とりとめのない話
12/17/2024, 12:13:59 PM