かのこ

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『夜の海』2023.08.15


 ベランダの外に出ると、夜風が頬を撫でる。
 目の前には暗い海が広がっており、空に登る月がほのかな灯りを落としている。空には星が瞬き、星座も確認することができる。
 東京ではこうはいかない。周りに高いビルがない沖縄だからこその光景だ。
 手すりにもたれてぼんやり海を眺める。
 酒も入ってることもあり、波音が眠気を誘いこのまま眠ってしまいそうだ。
「落ちるよ」
 声をかけられる。声の主は隣室の彼だった。
「それはどうも。……いい夜ですね」
「こんな夜は海辺を散歩してみたいねぇ」
 同じ劇団のメンバーであり、高校時代の先輩でもある彼は同意してくれる。
「せっかくだし、みんなで散歩してみない?」
「冗談。男五人で行ったって色気なさすぎです」
 美女が隣にいるなら別だけど、と付け足すと彼は、
「君がいるじゃん」
 とからかってくる。あいにく、自分にそんな趣味は無い。女役は芝居の時だけでじゅうぶんだ。
 そんな他愛もない話も、この綺麗な景色の前ではただのバカ話にしかならない。
 しばらくの間、そんな海を二人で鑑賞した。

8/15/2023, 12:45:19 PM