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「おはようランカ。ご飯できてるよ」

雨上がりの不思議な香りと、朝ご飯の美味しそうな香りが混じった朝。
山奥の小さな家で暮らすランカとリリアンは、いつも何かする訳でも無く、のんびりと毎日を過ごしていた。

「おはようリリアン。今日は何する?」

「特にすることも無いから、また街を散歩してみる?」

「ん、いいよ」


動物の縄張りを荒らさないように、山奥を丁寧に降りていくと見えてくる街。
そこは植物に覆われた、静かな静かな緑の街。
人の声は聞こえず、小鳥の声だけがたまに聴こえる。

「もう、みんな森になっちゃったね」
「うん」

「ランカ」
「なに?」

「今日ね、お薬のストックを見てみたんだ」
「うん」

「もうすぐなくなっちゃうみたい」
「そっか」

「もうすぐ、ランカともお別れだね」
「うん。バイバイだね。」

花がまばらに咲く小さな丘を登ると、街を一望できる公園がある。ここでいつもピクニックをするのが二人の日課だ。

「リリアン、今日のお弁当は?」

「サンドイッチ」
「やった」

最近は暖かい風が心地よい季節になってきて、毎日ピクニック日和だ。

「ねぇランカ、この星はどんなふうに終わるのかな」
「うーん…分からないけど、流れ星が沢山降ってきたりしたら、綺麗だよね」

「いいね。素敵」
「リリアンは?」

「私はね…シャボン玉みたいに、突然ぱって消えちゃうのも良いかなって思う。そしたら、怖い気持ちにならずに済むじゃない」
「え〜。もっと派手なのにしようよぉ」


「ふふ」
毎日ずっと話していても、尽きない話題。
街のこと、未来のこと、好きな男の子のタイプ。
思いついたままに話すだけで、日は暮れてしまう。

「ランカ」
「ん?」

「私達がいなくなったら、誰がお墓を建ててくれるんだろうね」
「んー?…そんな人いるの?」

「私ね、植物に造ってもらおうと思うんだ」
「植物?」

「うん。沢山時間をかけてね、植物がゆっくりと眠った私を包んでくれるの。お花もあったら素敵だなぁ」
「それ、いいね」

「でしょ」
「…リリアン」


「なに?」
「もう、いっちゃうの?」


「…うん。しばらくしたら、ね」
「さみしくなるね」

「ごめんね」
「…ううん。」

「それじゃあさ、ランカ。
私が居なくなったら、貴方がお墓を作って?」
「…いいの?私不器用だよ。せっかちだし、お花だって咲かせられない」

「うん。そっちの方が、きっと寒い日も暖かいわ」
「…分かった。」

薬が切れたら、リリアンはもう目を覚まさない。
リリアンが居なくなったら、私はどうやって過ごせばいいのかな。美味しいご飯が食べられるのも、あと少し。

「じゃあ、帰ろっか。お夕飯の支度しなきゃ」
「うん。」


この世界は、もうずっと昔に終わっている。
私達も、もうすぐ終わる。

そのときまで、ゆっくりと。

1/15/2024, 12:55:15 PM