ほろ

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1日1回、部室棟の角にある化学部部室を見に行くようになって、早3ヶ月。枯葉は落ちて学年が1個上がり、卒業がスタート地点からよーいドンで走り始めた。追いつくのも時間の問題だ。
そのタイムリミットまでに、俺は化学部部室へ入らなければならない。扉の上の方のガラスに貼られた『私も』の意味を、中にいるメガネ女に聞かなければならない。そう思っているのに、いつもドアノブに手をかけては諦める。
「あー……また来るか」
毎日それの繰り返し。

「いい加減にしろ!」

今日も今日とて、化学部部室に背中を向けて立ち去ろうとした。だけど、扉が勢いよく開いて、顔を出したメガネ女が叫んだ。何事だ、と向かいの書道部部員が顔を出す。すみません、と一応頭を下げれば、書道部部員はすぐに頭を引っ込めた。
「なんなんだ君は! 私をいつまで待たせる気だ! 毎日毎日、来るだけ来て終わりか!」
「なっ……なんで、知って……」
「影くらい見える! 本当に……いつまで……」
しゃがみこんで、大きく溜め息。
参ったな。急だからなんて言えば良いか分からねえ。
「えっと、あー、その、アレの意味って……」
「……まさか分からないとか言わないよな?」
俺の指を追って、メガネ女はまた溜め息をつく。
いや、意味はなんとなく分かる。分からないフリをして逃げているだけで。
唾を呑む。ごくり、喉が鳴った。
「……お前も、俺に会うために部室にいたって、ことだろ?」
俺の告白紛いの『お前に会いに部室に来ている』に対して、奴は返事をしたわけだ。
「分かっているなら、喜んだらどうだ」
「いや、その……まだ信じられないっつーか、そんな訳ないよなって思うっていうか」
「はぁー……君は本当に……」
「なんだよ」
「私も君が好きだ、とこう言えば分かってくれるのか?」
下から睨みつけられて、思わず顔を背ける。
こいつ、たまにこういう直球なところがあるから苦手だ。
「……充分分かってるよ」
「なら良し。さ、中に入ろう。君に話したいことが沢山あるんだ」
「はいはい」
久しぶりに化学部部室に入る。
相変わらず中は本が散乱していて、ちょっとホコリっぽい。でも、あの日枯葉をつけていた外の木は、すっかり桜が咲き誇っていた。

2/19/2024, 11:41:34 PM