俺は今日も、隣の部屋から聞こえる、声を抑えて泣く声に耳を傾けていた。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
謝る声が聞こえる。その度、「お前は悪くない。」と言いたくなる。でも、俺が何かアクションを起こしたら、すぐにいつもみたいににこにこ笑って「どうしたの?」と言ってくるのは分かっている。経験済みだからだ。
それなら、どうやって伝えるか。俺は、一日だけでも貴方に泣かない夜を過ごしてほしい。貴方の側にいて、悲しみを分け合って残りを喜びで満たせば、貴方は笑ってくれるだろうか。────笑ってくれなくてもいいけど、いずれはそうなってほしいのだ。
勿論、すぐに止めるなんて無理だ。だからこれから、部屋に行っても誤魔化す演技をされるだけだろう。
そもそも、貴方がこのようになってしまった原因は、貴方が高校三年生の頃────六年前まで遡る。その年の文化祭で発せられた、たったひとつのありもしない噂のせいで学校中が敵になって、いじめられるようになったというものだ。
俺は、幼稚園から中学の時までずっと、貴方に迷惑をかけてきた。だから、高校では自由になってほしいと思い、貴方とは違う高校に進学した。────それが間違いだった。
一番傍にいてはならない時に傍にいて、一番傍にいるべきときに傍にいない。そんな頼りない俺でも、貴方は許してくれるだろうか。
俺は扉を開けて廊下に出た。冬真っ盛りで、一歩外に出ただけで凍え死んでしまいそうである。
正直、そのまま凍え死ねと思った。だが、貴方を救うまでは死ねないのが事実である。たとえ、俺に救えないとしても、それを自覚するその時までは────それを自覚したとしても、足掻かせてほしい。
作戦なんて何も無いまま、俺はすっかり冷たくなったその部屋のドアノブに触れる。────閃いた。演技をさせる隙を与えなければいいんだ。
思いついたらすぐ実行だ。俺はドアノブを押して前方向に力を込めて扉を開けた。
驚く隙も与えてやらない。真っ直ぐに貴方のもとへ走り、その身を抱きしめた。
#あなたのもとへ
1/15/2025, 10:56:12 PM