小絲さなこ

Open App

「アクセント」



「暑い……半袖にすればよかった」

何気ないひとりごとに、以前から密かに気になっていた同じサークルの女子が食いついた。

「もしかして、長野の人?」
「……そうだけど。なんで」
「えっと『半袖』のイントネーションがそれっぽいなぁって……あの、兄が比較言語学の研究していて……」


マジかよ!
自分では標準語を話しているつもりだったのだが。

「えっと……なんか……変なこと言っちゃったかな。ごめんね」
「いや……」
「ほ、ほら、方言だと思ってない言葉って、どこの地域にもあるって兄も言ってたし。東京だって方言あるから……『れんこん』を『はす』とか『青物市場』のことを『やっちゃば』とか……」

フォローになっていないようなフォローだが、彼女とはそれがきっかけで親しくなった。
しかも、あとから聞いた話では、なんとかして俺と会話をするキッカケを掴みたくて話しかける機会を伺っていたのだという。結果オーライということにしておこう。



────半袖

5/28/2024, 3:29:16 PM