夫婦になったからと言って、なにかが大きく変わるわけではなかった。わたしの隣にはいつも彼がいて、彼の隣にはわたしがいた。それは今までの当たり前で、これからも当たり前であるはずだった。
「ごめんな」
わたしの頬を撫でる手がかすかに震えている。
なにか言いたかったはずなのに、ただ心臓がわたしの中で暴れるだけで、口を動かすことができなかった。
「本当にごめん」
そんなに謝られても、と言いたかった。
もうどうにもならないのよ。
「俺は君が好きだよ」
彼の目が、わたしに縋って突き放そうとする。
そんな言葉に胸を高鳴らせるべきではないのに。
「わたしは」
その次になにを紡げばいいのか分からなかった。
わたしはどんな顔をしているのだろう。彼の目を覗き込むことはできなかった。
「わたしは、約束を守ってほしかった」
病めるときも健やかなるときもわたし達は愛し合うと誓ったはずなのに。
彼はそれを破ろうとしている。けれど、わたしも破ろうとしている。それでも、すべての責は彼にあると言いたげなことしか言えない。
「ごめん」
彼の手がわたしの頬から離れていった。すぐにわずかな温もりが恋しくなる。
「いなくならないで」
わたしの言葉に彼は目を逸らした。もう、ごめんとすら言ってくれなかった。
11/23/2024, 5:42:12 AM