紅月 琥珀

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 それは小さな選択間違い。
 私にとってとても小さな、それでいて他愛のないものだったけれど⋯⋯彼女達にとってはそうではなかったらしい。

 ある日学校に行くと友人達から無視された。それは私にとって青天の霹靂であり、なぜ無視されるのか理由すら分からず困惑する。
 話を聞こうにも相手に無視されるので対処のしようがなく⋯⋯私は一夜にして友人を失った。
 とはいえ、殴られたり恐喝されたりした訳ではないので、気持ちを切り替えていこうと思い⋯⋯更に翌日、それを実行する。
 話しかけても無駄なら、話さなければ良いだけの事。
 嫌な事を直接本人に言える様な間柄では無かったとして、それは本当の意味で友人と言えるのだろうかと昨日1日考えて、出た結論に基づき対応を変えたのだ。
 その日から私は休み時間は好きな事をするようになった。
 それはノートに落書きだったり、気になっていた小説を読んだりと多岐に渡るが―――とても充実した休み時間を過ごせて、別に無理して友人達と過ごす事無いなと改めて思い、この心地の良い時間を堪能する。

 更に1週間が過ぎた頃。元のコミュニティにいた子がこっそりと私に話しかけてきた。
 空き教室に連れて行かれ話された内容は実に下らない事で、本当にそんな事で無視されたのかと呆れてしまい、更に彼女達に対して心が冷めた。
 今更、ごめんと理由を話されて謝られた所で私の心は何の感情も同情も湧き上がってこず、むしろそれをする事で彼女がどうしたいのか理解できずにいる。

 正直な話、あの時彼女の言う通りにしなければ自分がハブられると思ったとか、今更言われてもだから何? って話だし、本当はやりたくなかったって言うならやらなければ良いだけだと思ってしまう。
 そうする事を選んだのはこの子自身なのに、彼女を言い訳に自身を正当化しようとしてるのがもう無理だった。
『悪いんだけど、もう友達でも何でもないよね? そもそも、嫌なとこあったなら私に直接言えばいいのに、そういう手段とって話し合いもしなかったのそっちでしょ。今更謝ってもらう必要無いから気にしなくて良いよ。もうあなた達のことなんてどうでもいいし、何言われてもだから何? としか思えない』
 要件それだけ? そう聞いたけど彼女は、酷く傷付いた様な表情をするだけで何の反応も無かったので、さっさと教室をあとにする。
 潰れた休み時間に少し落胆したけど、次の時間に何をしようかと頭を切り替えて、私は今日も自分らしく生きていく。
 他人に振り回されるよりも、こっちの方が性に合ってると気づけた。そこだけはきっかけをくれた彼女達に感謝している。

 ◇ ◇ ◇

『さっきの何? 最近あの子調子に乗ってるよね。明日から無視しよ』
 グループの中心にいるあの子が、彼女の言動に腹を立てて言われた言葉だった。
 他の子達も結構、鬱憤が溜まってたらしくて同調している。私はそれでも仲を取り持とうとしたけど“なに? あんたあいつの味方すんの?”って言われて怖くなった私は、結局あの子達に従ってしまったのだ。

 それから1週間、彼女の事を気にかけていたけど全く動じていないように見え、私の方が逆に動揺してしまう程⋯⋯普段通りの彼女だった。それどころか私達と一緒にいた時よりも生き生きして見えて、あの子達にバレないようにこっそりと彼女と話をしてみる。
 結果、突き放されたのは私たちの方。
 もう本当に何とも思っていない事が分かるくらい淡白で、少し迷惑そうにされた。
 彼女の最後の言葉を聞いて、酷く胸が痛くなって何も返せなくなった私を置いて、彼女はその場を去っていく。

 あれから1ヶ月経った今でも彼女の言葉が離れなくて、胸に何かが突き刺さるような痛みに襲われている。
 あの子の言う通りにしてしまった事を、ずっと後悔していた。
 そしてもう戻らない⋯⋯ずっと憧れていた彼女と過ごせた日々を思う。
 もしも――――――願いが1つ叶うのなら。
 あの日に戻って、例え自分がいじめられても彼女の手を離さず⋯⋯今も共に居られる未来を掴みたい。
 そんなたらればを思う自分に心底呆れながら、私はこれから1人で行きていくのでしょう。

3/10/2025, 12:34:26 PM