白糸馨月

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お題『鳥かご』

 むかし、飼い主さんが教えてくれたの。
「君みたいな姿をした生物が家族でご飯を食べたり、学校行ったり、働いたりする星が遠くの方にある」って。
 わたしは鳥かごの中に飼い主さんが用意してくれたふわふわの天蓋つきの白いベッドに、飼い主さんが着せてくれた白いサテンのかわいいワンピースに身を包みながら聞いてたの。
 わたしみたいにニンゲンの言葉を理解して、お喋りしたり、お洋服を着たり、鳥かごをお部屋みたいにしてくれるのは珍しいことみたい。前に飼い主さんに抱っこされながら散歩した時、他のわたしと同じ生き物を見たけど皆服を着てなかったし、言葉も喋れなかった。
 
 わたしの星では常に戦いが起きていて、最近飼い主さんがいなくなっちゃったの。

「もし僕が戻ってこなかったら鳥かごから抜け出すんだ。そしたら、誰にも見つからないように走って、『地球』行きの宇宙船を見つけたらそれに飛び乗るんだ。そうすれば、君はもう鳥かごで暮らさなくて済む」

 って言い残して、飼い主さんは、全身かたそうな黒いお洋服に身を包んで、黒い銃を手にしていなくなったの。
 しばらく待っても戻ってこなくて、お部屋の扉を蹴破って飼い主さんを探しにやって来た怖いおじさんたちに「服を着た小さく美しいサルがいるな。しかも言葉を理解するとは珍しい」と言われて捕まりそうになって、今、逃げてるところ。怖いおじさん達が言うには、飼い主さんは今も行方がわからないんですって。

 命からがら逃げて、逃げて、逃げて、足を怪我しながらようやく宇宙船のターミナルについて、『地球』行きの観光用宇宙船にどうにか忍び込んだところ。たまたまお客さんがいなくて良かった。
 宇宙船が離陸するのに体がとばされないようにしがみついて、宇宙船が安定するまでどうにか耐えたわ。走ったり、振り回されないようにして、疲れちゃった。
 わたし、飼い主さんに言われたの。宇宙船に無事に乗り込めたなら発信機のスイッチを入れてくれって。ワンピースのポケットから発信機が落ちていないことに安心して、中央のボタンを押したわ。
 音が鳴らないから飼い主さんに届いているかはわからない。
 乗った宇宙船は、天井の窓が丸く大きくあいていて、いろんな星たちが見えて、

「飼い主さん、会えるよね」

 とぽつりこぼした。宇宙に浮かぶ星たちはきれいで、飼い主さんにも見せてあげたかったな。

7/25/2024, 4:05:44 PM