川柳えむ

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 これは小さい頃のお話。

 こっくりさんって知ってる?
 そう。紙に五十音を書いて、十円玉で行うあの、いわゆる降霊術ってやつ。
 なんで小学生の頃って、あれ流行るんだろうね? 手軽な遊びというか占いみたいなものなのかな。
 でも、私達がやっていたのはこっくりさんじゃなくて、その派生系。やってることはほぼ同じだけどね。こっくりさんじゃないから危なくないと思ったんだろう。

 ある日、体育館の裏でそれをやっていたんだけど、どういう話の流れだったか、そのこっくりさん――正確にはキューピッドさんが、時間を止めると言い出した。キューピッドさんって、名前だけ聞くと恋愛関係のことを話しそうなのに、なんでそんなことになったんだろうね。
 しかし、私達は大いに盛り上がった。それはそう。本当にそんなことができるのかと。止まったらどんな感じなのだろうと。
 目を閉じて祈るように言われ、私達は目を閉じた。

 時間よ止まれ。
 時間よ止まれ。
 時間よ――

 さっきまで、遠くで誰かが誰かを呼ぶ声がしていた。「お――――い」と、大きな声を長く響かせていた。
 その声が、突然ぴたりと止まった。
 声だけじゃない。風が木々を揺らす音も、生命を感じさせる全ての音、時間が流れていることを感じさせる全ての音が、聞こえなくなった。
 それはどれくらいの間だったか。
 ほんの一瞬だったような、長い間だったような。
 気付けば木々のざわめきも、誰かを呼んでいる声も、また戻ってきていた。
 まるで、時間の流れに空白を差し込んだかのようだった。

 キューピッドさんにあなだがやったのかと聞く。鉛筆(キューピッドさんは十円玉じゃなく鉛筆でやる)は「はい」へとゆっくり移動した。
 この出来事で怖くなり、キューピッドさんをやることはなくなった――なんてことはなく、むしろ本物だ! と余計に盛り上がってしまい、それからもたびたび行っていた。大人になっていくにつれ、やらなくなってしまったが……。

 それにしても、もしこれが本当にキューピッドさんの力で、もっともっと長い間時間を止められるとしたら。もしキューピッドさんがとても悪い存在で、時が止まった世界に閉じ込められてしまったら。私達はどうなっていたんだろう?
 やっぱり危険なことはやらない方がいいね。

 もし、これを読んで興味を持ってやってみたいと思ってしまった人。
 私は一切責任を持ちません。やるなら自己責任でお願いします。


『時間よ止まれ』

9/19/2023, 9:21:20 PM