《遠く....》
カキーーン!
そんな気持ちのいい音を立ててボールが空を飛ぶ。
いいぞ、もっと、もっと遠くへ。
そんなことを思いながら俺、齋藤春輝は一塁を通過し、順調に二塁、三塁、ホームベースへと走る。
「よし、満塁ホームランだ!」
これで4点、点が入る。
今は隣の高校の野球部との練習試合。今の4点で逆転だ。
それから少しして、攻守交代。俺のポジションは一塁で、これは双子の弟の蒼戒をキャッチボールに連れ出すと、いつもものすごい変化球しか投げてこないからどんなボールも取れるようになったからである。
カキーン!
ボールがバットに当たり、外野へ飛んでくる。遠く、遠く、遠くに。
そこから外野がキャッチして、こっちに投げる。
いいぞ、いいぞ、よし、取った!
「アウト!」
よし、アウトだ。これなら勝てる……!
次のバッターが前に出てきて、バットを振る。ボールを打つ。走る。俺はボールを取る。アウトにする。あー、楽しい。
それにしても今日は暑い。まあ夏休み真っ只中だから当然か。
「よし、野郎ども! 一旦休憩!」
攻守交代のタイミングで休憩が入る。まあこまめに水分補給しないと熱中症になって死んじまうし。
ピーー、ヒョロロローー……。
どこかで鳥が鳴いている。モクモクと威勢のいい入道雲が遠い遠い空に見える。
ああ、夏だ。ただひたすらに暑い、夏。俺はこの季節は嫌いではない。
「よし、やるぞー!」
「おす!!」
監督の一声で練習試合が再開される。
次は俺の番。今回も満塁だから、ここでホームランを打てれば、サヨナラホームランだ。
ヒュンッ。
実際にそんな音は立てないけれど、そんな音が聞こえるような速度でボールが投げられる。
「いけっ……!」
カキーーン!
行け、もっと、もっと、遠く、遠くへ。校庭の端まで飛んでけ。
一塁、二塁、三塁、ホームベース。
「よっしゃ! サヨナラ満塁ホームラン!!!」
わあああああああ!!! とチームのメンバーが校庭に雪崩れ込んでくる。
「さっすが春輝! 我らが野球部のエース!」
「2回も満塁ホームランって凄すぎです先輩!!」
「胴上げ! 胴上げしましょう!!」
みんながそれぞれに声をかけてくる。
「いや、胴上げはさすがにやりすぎじゃね? だって今日練習試合だよ?」
「いいじゃないですか先輩! やれる時にやっとかないと!」
結局みんなに流されて、胴上げされることに。
「わーっしょい、わーっしょい!」
空に上げられた瞬間、視界いっぱいに青空が広がる。威勢のいい入道雲と、白い月が見える。名前も知らない鳥が飛んでいる。
そんななんでもない夏の空が、その時妙に印象に残った。
(おわり)
2025.2.8(2.15)《遠く....》
2/9/2025, 6:41:51 AM