くだらない、というきみのために俺は。
何度も踏み潰されてきたのだというきみの好きを拾い集める。一言ずつ言葉を添えて、それが届いているのか分からないが見たという証明を残していく。
折れた筆の柄を握ってきみはぼんやりとしている。
白い画用紙は傷だらけで所々穴も開いている。とても絵とは言えないものを満足そうに見つめて、床に落とした。
立ち上がり、軽い足取りで部屋の中を歩き回る。使った道具を片付けているだけなのにとても楽しそうだった。
「おつかれさま」
俺に気づいてそう声をかけた。出入り口の前に立つ俺の横を通り過ぎてそのままきみは出ていった。
完全に姿が見えなくなったのを確認してから、床に落ちた画用紙を覗き込んだ。じっと目を凝らし傷跡を辿っていくと鳥を描いていただろうことが予想できた。尾の長い、孔雀のような、オウムのような、たぶん創作した鳥だ。
色がのっていたらどんなだろう、なんて思いながら跡しか残らない透明な鳥を拾う。浅い凹凸の影に生きる鳥は空を飛ばずとも美しい。
くだらない、というきみには才能がある
俺はどうしたって追いつけないきみを追い続ける。筆を失ってもなお描くことをやめられないきみには追いつけないのに。その才能が羨ましくも、憎らしい。
【題:影絵】
4/19/2025, 9:51:28 PM