夜空の音

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大事にしたい


「別にここ家やと思ってねぇわ!」

「うっさいなぁ!うちの好きにさせてや!」

「うちは産んでくれなんてゆってねぇやろ!」

「黙れよ、ほっといてや!」

どれだけ酷い言葉を投げかけただろう。
どれだけ反発し続けただろう。
少し過保護なこの親に嫌気がさして、少し弟贔屓をするこの親が嫌気がさして、周りと比べるこの親に嫌気がさして....。
年齢とともに家にいる時間が少なくなるのと比例して、話の行き違いが増え、言い合いが増え、この家に居場所が無くなったように感じた。
私がこの親を嫌いな理由を挙げればキリがない。
きっとこの母親も同じだろう。

誰だろう、この人は。
私を抱きしめて泣いてるこの人は誰だろう。
なにがあったのか、私にはわからない。
私はもう疲れてるからやめて欲しい。早くバイトの用意しないと。目も冷やさないと。この手首から流れる血も止血しないと。
ぼんやりと、回らない頭で考える。
「....もういいよ、もう、バイト辞めていいから。」
耳元から聞こえた声がぼんやりと頭に入る。
「やめる。」
“やめる”って、なんだっけ。
「そう、辞めるの。こんなボロボロになったあんたを見たくないっ。」
私って、ボロボロなの?なにが?どこが?
頭が未だ霧がかかったように上手く言葉が入ってこない。
「大丈夫やから、離して。準備する。」
私はグッと腕に力込めて母親を引き離し、部屋を出ようとした。
「泣きながら準備するのも、明け方に帰ってきて朝早くから働くのも、全部おかしいの!わかってるでしょ!」
その言葉に涙腺が緩んだのがわかった。
「わかってるよ!わかってるけど、無理なの....。仕事が、終わんなくて。終わってなかったら店長に怒られるっ!ちゃんとしないと、誰かが事故起こすかもしらん!誰かが死んじゃうのはやだ!もう、これ以上知ってる人が死ぬのは見たくないっ。」
部屋を出た時、更に目が潤んだ。
「でも、私。しんどいなぁ....。」
声が震えてきて、言葉が出なくなった。
「今度、ちゃんと話聞くよ。だから、今はほっといて。」
返答は聞かず、私は用意をしてバイトへ向かった。

その後、母親と話し合い、1悶着あったがバイトを辞めた。そして病院に行けば鬱と診断された。
母親、ままとは話し合いをしてから言い合いも無くなった。
あんなに酷い言葉を言い続けてた私を何も咎めず、優しく包み込んでくれた。何年ぶりかのあたたかなこの家は、私の家に戻った。

この出来事の数年後の今、私は決めたことがある。
あたたかなこの家を大事にしたい。
最後には母親として私の苦しみを全部飲み込んで優しく包み込んでくれたこの人を大事にしたい。守りたい。恩を返したい。
まだ恥ずかしくて言えないけど、病気が治ったら絶対に、ありがとうを伝える。

(大事にしたいことって考えてたら物語というより、自分の決意表明みたいになってしまいました....。物語を楽しみにしてくださってた方には申し訳ありません。)

9/20/2024, 2:27:03 PM