わたゆめ

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風を感じて


リレーの応援に行くために、隣の県まで車を走らせた。
3年生にとってはこの大会が引退試合になる。
3年間の地味な練習の積み重ねの成果をしっかり出したいという想いでこの地を踏んだのだと想像した。

私自身も中学時代は陸上をしていた。
していた、というのも恥ずかしい。
頑張っていたのは入部して半年だけで、あとは地味な練習のツラさにサボることばかり考えていた。

その成果にベストタイムは1年生の秋以降塗り替えられていない。
さすがに、3年生の引退時にもらったこれまでの記録をまとめた一覧を見て自分を恥じた。

だからこそ、目の前にいる3年生がこの地に立つことの凄さが分かる。
8月のこの時期まで引退していないということは、地味な練習をしっかりやり込んできた証拠だ。
飽きずに、ちゃんと続け人たちだ。

素直にすごい人たちだなと思った。

そのすごさを見たくて、親でもないのに車を2時間半も走らせた。

リレーに出る1人が言った。
「正直、ここまで来ると思わなかった。」と。
「◯◯のおかげ」と2走を走るエースの名前を呼んだ。

私は目頭が熱くなる思いがした。






結果は予選敗退だった。

決勝に行けずに引退を向かえた選手たちは無言だった。
笑顔もなければ、反省もなく、涙もない。

「引退か。」と呟いた。




当たり前のように走っていた。
毎日、毎日
目の前に道があるのが当たり前で、この道さえなければ休めるのに、と何度思ったことか。
隣には仲間がいて、一緒に風を感じながら走っていた。

引退というのは、その当たり前が終わるということだ。

それを初めて思い知った。

「もう◯◯とは走れないってことか。」

そんなことすら、終わってみないと気付かなかった。

引退したら、一緒に走る道が目の前から消えるということだ。

残りの半年、毎日学校出会うのに、もう一緒に走ることはない。



彼女たちがそんな感傷に浸っていたかはわからない。
それくらい淡々としていた。
着替えて、ご飯を食べて、ボロボロのスパイクを手入れして、テントを畳んで帰っていった。

走ったのは1分にも満たない時間で、それ以外の時間の方が圧倒的に長かった。


私は青春の1ページ見た。

彼女たちが、学生時代を振り返れば、今日の走りがよき思い出として思い出されて胸がいっぱいになるだろう。

だけど、よき思い出なんてほんの一瞬で、それ以外の時間の方が圧倒的に長い。
青春とは、なんと泥臭い時間の流れか、と思い知った。
そんな泥臭い時間を淡々と過ごしている彼女たちの尊さに、私はただただ感動した。

夢じゃない

8/9/2025, 12:10:53 PM