天気予報では晴れだった。本日は一日快晴となるでしょう、と爽やかな表情で若手そうなアナウンサーが告げていたのを覚えている。
朝の記憶を反芻しながら、慌てて飛び込んだ三メートルほどの木の下で、小さく溜め息をついた。
最初はパラパラ。
次に、ボタボタ。
終いにドボドボ。
「……うーん。大災害」
アナウンサーの策略により傘など持っていない哀れな私は、大きな栗の木の下でひとり、立ち竦むしかないわけである。いや栗の木じゃないけど。たぶん。
一人で、しかも脳内でボケたところで相方はいない。けれど走って移動できるような雨でもない。暇すぎる脳は勝手に漫才をして時間を潰している。
空はどんよりしていて、まだまだ太陽は拝めそうにない。まあこの手のやつは、短時間と相場が決まっているのですぐにこの場から解放されるだろう。そう結論づけた私は自分の脳みそを遊ばせてやることにした。まあ、最近仕事忙しかったし? たまには無為なことに回路を動かすのも、いいだろう。
視線を周囲に動かす。傘を差して歩く人。黒のズボンの裾が更に黒さを増している。まあ、そうなるよね。
手で頭を庇いながら走る人。多分、いやどう考えても意味はなさそう。そして走っても残念ながら手遅れそう。濡れてないところが無さそうだし。
合羽を着ている人。か、賢い。天気予報では晴れって言っていたのに、なんて準備がいいんだ。かもしれない運転、やっぱり大切だな。
ふと腕時計を見やる。ここに逃げ込んで、もう三十分以上は経つ。外を見る、なんて必要もない。耳が拾う音はいつの間にやらドボドボ越えてゴーッ! である。世界の終末? セオリー通りならポツポツになっているはずなんだけど。
これ、無事に帰宅できるんだろうか。すべてを諦めて濡れる覚悟を決めるべき?
悩んで、もう少しだけここにいよう、と決めた。別に暇ってわけじゃないけれど。
使いたくもないことに使い続けた脳みそが、こういうのも悪くないねって語りかけてくるのだ。現状、乾いた体で帰ることができるのか問題に目を瞑ってさえしまえば、こんな時間も悪くないと思えたので、まあ。
もう少しだけ、佇んでいよう。
テーマ「雨に佇む」
8/27/2024, 10:39:50 AM