天気予報の「折りたたみ傘でこと足りるでしょう」を鵜呑みに、帰ろうとしたら大雨で、傘を開けば元気がない。
支えが1ヶ所折れていた。折れた木の枝のような、布が支柱の重みでぶらりと垂れ下がる。ボタボタ打ち付ける雨粒は容赦がなくて、最短距離を伝って肩と鞄を濡らしていった。水溜まりも存外深く、靴下まで浸みだして…『最悪』だ。
君と駅で待ち合わせしているのに。詳しくは駅のホームだが。屋根はあるものの横殴りでは意味がない、濡れてなければなと思う。
もうすぐ着くと連絡を入れて、階段を上ればキョロキョロしている分かりやすい君がいた。同じく階段を上がった人たちと俺の被害は著しく違う。君は目を見開いて、俺は肩をすくめた。
「傘が壊れていてさ、最悪だよ」
君からタオルを受け取って荒っぽく拭う。カフェデートのつもりだったが足下の不快感は耐え難い。
「ごめん、俺の家でいい?コーヒーか紅茶しかだせないけど」
半乾きのまま夜風に当たると、一段と冷えて夏はまだ先なんじゃないかと疑った。
家へ帰る道中も雨は止む様子がない。君の傘も折りたたみ傘だから大人2人は少々きつくて。
「もっと寄って。これ以上濡れたら風邪引きそう。でも付きっきりで看病してもらうのも…」
寝込む俺を心配する君に好き放題わがままを言って甘えるのも悪くないんじゃ…。
「行けなかったカフェ、リベンジするんだから…風邪ひいちゃ嫌」
傘が一瞬傾いた、がすぐに直す。
君が腕に抱きついてきたから、意図しなかった重みに傾いただけ。温かさと同時に柔らかな感触も伝わってきてしまうのだが、役得ということにしておこう。
カップルのド定番という相合傘が出来たのだからそれほど『最悪』ではないかもしれない。
6/6/2023, 10:24:14 PM