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クラリネット吹きだったあの頃。

プレッシャーから逃げたくて、
いつも小さな家庭科準備室に篭って練習していた。

ある日、何を思ったのか、ふとベランダに出て、
だだっ広いグラウンドに向かって練習をした。

入道雲の見下ろす夏空の下、
ちっぽけな私が
懸命に旋律を張り上げていた。

誰か、誰か私の音を聴いてくれ。

殻に籠って自己完結してた私の叫びは、
その時だけ誰かに向けて奏でる、演奏になっていた。

結局私は大した功績も残さず、
クラリネットを続けることはなかったけれど。

あの弱々しい、不安げな、けれど必死な音が
誰かの心に留まっていたならと
今でも想像したりする。


『上手くいかなくたっていい。』

8/10/2024, 7:56:43 AM