誰だもが知らずの語り屋

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『風の灯、涙の橋』

第一章:灯の祈り

秋の終わり、葉が舞い散る丘の上に、少女・灯(とも)は立っていた。彼女は「風の灯」と呼ばれる伝承の継承者。風に願いを託し、灯をともすことで、遠く離れた者の心に届くと信じられていた。

灯が灯すのは、幼い頃に別れた兄・遥(はるか)への想い。戦火の中、風の国へと旅立った彼は、消息を絶ったまま。灯は毎夜、風に向かって灯をともした。けれど、返事はなかった。

第二章:夢の橋

ある夜、灯は眠りに落ちると、夢の中で見知らぬ場所に立っていた。空と海が交わる場所。風が七色に輝き、橋が空へと伸びていた。

橋の向こうに、遥が立っていた。

「灯…来てくれたんだね。」

彼の声は風に溶け、灯の胸に響いた。灯は走り出す。けれど、橋の途中で足が止まる。風が強く吹き、涙が頬を伝う。

「どうして…夢なの?」

遥は微笑みながら言った。

「夢だからこそ、心が届く。君の涙が、僕をここに呼んだんだ。」

灯は橋の上で膝をつき、涙を流した。その涙が風に乗り、橋を虹色に染めていく。

「この涙は、あなたに届いた証…」

遥は灯に近づき、そっと額に触れる。

「もう一度、風を信じて。僕は、風の中にいる。」

そして彼は、風とともに消えた。

第三章:風の返事

目覚めた灯の手元には、一通の手紙があった。夢の中で見た遥の言葉が、現実に届いていた。

>「灯へ。風の国で見た夕焼けは、君の灯に似ていた。僕はもう戻れない。でも、君の涙が僕を導いてくれた。ありがとう。」

灯は丘の上に立ち、最後の灯をともす。

風が吹き、夢と現実が重なる瞬間。灯は微笑みながら言った。

>「この涙は、夢の中であなたに届いた証。風よ、ありがとう。」

その夜、丘の上に虹のような風が吹いた。灯は静かに目を閉じ、風の橋の向こうに遥の姿を思い描いた。

9/27/2025, 3:06:29 PM