作家志望の高校生

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「まもなく、終点。終末、終末です。お出口は、右側です。」
無気力な車掌の声がガラガラの車内に響く。乗客は俺達4人だけで、他は誰もいない。当然だ。楽しい時間旅行の行き先に、危険が溢れかえっている終末世界を選ぶような変人はそう多くない。しかも時刻は終電ギリギリの深夜。乗客はさらに絞られる。
「今日何するー?前とおんなじ?」
「薬は飽きたでしょ、そろそろ。」
なんでもないような調子で、物騒な話を繰り広げる。終末世界では、薬も暴力も何もかも、全てが合法だ。正確に言えば、秩序も法も崩壊した世界、というのが正しいが。
ガタリと一際大きく車体が揺れ、タイムワープの長い長いトンネルを抜ける。車窓から見える景色は、崩れたビルに薬でゾンビのようになった人々、荒れ果てた荒野。街灯さえ壊れた、深夜の街だった。
風化して原形を失った駅に下り立ち、4人揃っていることを確認する。そして、誰からともなく荒廃した世界のさらに下、アンダーグラウンドの闇市に足を踏み入れた。
「ねー、あそこで売ってる子けっこー可愛くない?」
世界の終わりに即して親でも喪ったのだろう。粗末な服を着た少女が檻の中で一人座っていた。
「馬鹿、買っても連れて帰れねぇだろ。」
「そうだよ。どうせ連れて帰れないんだしやめときな。」
駄々をこねる友人を、別の友人が2人がかりで止めている。
「なぁ、今日の宿いつもんとこでいい?」
そんな彼らの空気を、俺はあえて読まない。流れをぶち壊して宿の予約を入れる。
「オプションで薬つけて!」
「はいはい。」
言われた通りオプションを組み、宿の予約を完了する。薬物中毒者の俺達にとって宿代なんて勿体なくて仕方ないので、4人で一部屋だけだ。
めぼしいものも無かった闇市を抜け、宿に入る。机の上には、サービスの水や菓子に並んで怪しげな注射器が4本置かれていた。全員、慣れたように無言でそれを手にとって、躊躇なく腕に突き立てる。ぼんやりしていく意識にただならぬ幸福感を感じながら、4人縺れるようにしてベッドに倒れ込んだ。
俺達の関係は、きっと友人と呼ぶにはあまりに歪であまりに近い。けれど、それでいい。俺達4人はオトモダチ。全員が全員にうっすら依存しているのも、もう離れられないのも、間に誰も入れないのも分かっている。けれど、この薬でドロドロになった終末世界、そんな世界でも一緒に笑いながら歩ける。薬でハイになった4人の狂ったような呻き声と笑い声が響くのを、多幸感に包まれながらどこか他人視点で聞いていた。
俺達は、今日も、そしてきっと明日も、この愉快でイカれた友達とこの廃墟街へ足を運ぶのだろう。

テーマ:friends

10/21/2025, 7:57:59 AM