烏有(Uyu)

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国公立大学の合格発表は遅すぎる。
3月に入ってからの発表だし、後期試験との間隔が短すぎる。
正直私は、前期で受かった気もしないのに、燃え尽きていた。
燃え尽きて、最後まで踏ん張れずにいた。
それでも卒業後の学校へ毎日通い、机に向かうフリをしていた。
そんな日々のなか、今日だけは、家にいた。
合格発表の日だから。
こたつのなかでスマホを触る。
合格していれば一人暮らしをしなければならないほどには遠いところの大学なので、発表を見に行くということはしない。
というか、近くても、落ちている可能性のほうが大きいのに、他の人と見る気になれない。
動画を見て、気を紛らわす。
合格発表は11時だ。
まだ少し時間があるな、時計を見ながらそう思った時だった。
ブロロロ…とバイクの音がする。
そして、家の前で止まった。
心臓の音も止まりかけた。
バッとこたつ布団を捲りあげ、そこから脱出する。
かつてない勢いで階段を降り、チャイムが鳴るのとほぼ同時に玄関のドアに手をかけた。
あまりにも早い応答に、一瞬目を丸くする配達員。
名前を確認され、私は込み上げる喜びを隠しきれず、ほぼひったくるように郵便物を受け取った。
1年間の努力が実った。
同じく志望校に合格した友達と連絡を取り、先生に報告するため、学校へ向かうことにした。
私は汽車で通学をしていたため、急いで駅に向かった。
春になればもう、次の便まで40分も待たなくていいんだ。
大学のあるところは比較的都会だから、列車は電気で動いているし、ワンマン列車なんてものはないだろう。
3年間慣れ親しんだこの通学手段が、急に遠く感じる。
この汽車の匂い、ドアの開く時の音、ボックス席の窓側に座ったときに差し込む陽の暖かさ。
すべてを噛み締めるように、シートに座った。
向かう先は通いなれた学校。
しかし心は、遠くの街を見据えていた。
どんな家に住もう。どんな人に会うのだろう。バイトは何をしよう。
希望に満ちている。

5.遠くの街へ

3/1/2023, 7:47:48 AM