サルルンルン

Open App

 瞼にチカチカと、途切れ途切れに光が当たる。

 一体ナンダ……?

 ゆっくりと目を開けて、少し気怠げな半身を起こすと、カーテンの細やかな隙間から光の線がスゥーッと伸びているのが見えた。

 寝る時、しっかりとカーテンを閉めていなかったのかと合点がいった。

 時計を見れば未だ午前五時。起きるには何時もよりも早い時間だ……
 と言っても一時間しか変わらない。ナント無く残った眠気も、一層深い倦怠感もプラシーボ効果だとかソンナ所謂『気の所為』に違いない。

 フゥッと大きく息を吐き出して起き上がり、勢いよくカーテンを開け放った。


 階段を降りて、右手に行けばキッチンがある。
 トースターの電源を入れ、傍らの冷蔵庫から食パンを出して焼く。

 何時もより一時間早いな……

 冷蔵庫から玉子を出して、更にキッチンの傍らに半ば捨て置いてあったフライパンも持ってきた。

 スクランブルエッグを作ってトーストに載せればきっととても美味しいだろうなァ……

 料理をするのは久しぶりだ。時間がかかる。    今の今までソンナ理由でフライパンを握るのを躊躇ってきた。
 然し一時間もあれば、どれだけ手間取ろうがスクランブルエッグくらいは作れるだろう。

 コンナ事で、少し気分を高揚させながら先ずは玉子を割ろうと、鷲掴みにして机を叩く。

 コツコツ……コツコツ……

 机を叩いている方の面を見る。白くツルツルとした曲面には何の変化もない。
 もう少し強く叩く。見る。変化はない。

 おかしい、こんなにも玉子を割るというのは難しい事だったか……?

 ツラーッと汗が額を流れていった。

 このままでは埒が明かない。腕を恐々振り上げて……

 パギャッ!

 ああ!割れた!イヤ罅が入った!
 辺りを見回す。コレを何処に……
 フライパン。埃だらけ。ああ私の馬鹿が。何故先に洗っておかなかった……
 急いで食器棚から器を出してそこにパカっと玉子を落とした。
 辺りには卵から出た白身やら卵黄やらが飛び散っている。無茶苦茶だ。

私は気を落としながらフライパンを洗い始めた。

 鈍臭いのだから何時もと違う事なんてしなければ良かったのだ。
 分かっていた事だ。アドリブは上手くいかない。
 昔からそうなのだ。だからいつしか、予定通りを信条にして生きてきた。
 今日一時間早く起きてしまったことは不幸な事だったのだ。

 然し、もうソンナ自分に嫌気が差している。
 何時も保守派、融通が利かず、マニュアル通りにしか動かず、スペック以上の事は絶対に出来ない自分自身に。

 だから時折してしまう。挑戦を、予定外の行動を。
 
 全く悪癖だ。

 スクランブルエッグは出来上がった。然し殻が入っているし、フライパンには卵黄がいっぱい張り付いていた。

 ソレを冷えたパンに盛り付けて、ケチャップをかけて、齧る。

 ……そうすると存外に美味い。
 落ちた気分が戻ってくるのを感じる。

「コレは……成功でいいか」

 私はどうでもいい事で気分を落とし過ぎる事こそ私の悪癖であると断じて、コーヒーを飲んだ。

テーマ:心の健康
 

 

8/14/2023, 6:55:26 AM