狭いワンルームのドアを開け
踵を擦るようにして靴を脱ぎ捨て
明かりをつけて
上着を脱いでハンガーに掛けると
冷え切ったフローリングの床と
薄く黄ばんだ壁とが作る直角に
綿埃と髪の毛の混じったものが溜まっているのが
いやに目につく
今夜はもう遅いから
掃除機をかけるのはまた今度にしよう
だが気づくとどうも気になる
こういうのを放っておけない性分なんだ俺は
ああ 汚い汚い
ティッシュを一枚取って
這いつくばって床を拭う
ああ汚い なんて汚いんだ
俺の体から落ちた垢と髪と埃が入り混じった灰色
人間てのは汚ねえもんだな
狭い部屋だからそう時間はかからない
難なく一周し終わって
ティッシュをゴミ箱に放り込む
そうして
ひとつため息をつく
満足のじゃない
疲れたやつを
うんとみじめたらしいため息だ
人間てのは汚ねえもんだな
体から汚れを出して撒き散らし
食ったりなんだりでゴミを作りながら生きて
最後はこの身体というでかい生ゴミを残す訳だ
考えただけでうんざりだ
晩飯を作って食う気も失せる
俺は床に腰を下ろし
壁に凭れて
スマホをポケットから取り出し
アプリを起動して
愚にもつかんことをつらつら書き連ねる
要するにゴミを作ってる
投稿のOKを押して目を瞑る
疲れたな
横になってもう寝たい
壁際に転がる大きな生ゴミだよ俺は
ああこの生ゴミも
仕事だの家事だの何だの
やらなきゃならないことがうんとある
風邪を引くわけにもいかないし
ああ 塵や埃なら壁際に溜まってりゃいいが
生きてるうちはそうもいかない
何とも情けない話だな
目を開けると部屋の隅に一本の髪の毛
俺は舌打ちをして立ち上がる
拾い上げてゴミ箱に入れるために
なにしろ
ああいうのを放っておけない性分なので
12/7/2022, 1:48:19 PM