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第三惑星地球。自らの星を三番目と名乗る謙虚な星に、何百光年先からの来訪者がやって来た。
「ようやく水の惑星を見つけたと思ったら嘘つきの星じゃないですか!」
水色の髪はジェルのような光沢を持ち、触るたびに触手のように跳ね返る。紫の瞳はマゼンタの瞳孔を携え、幼い体躯は百メートルきっかり。
人らしい形の人らしからぬ色彩の少女は、卓袱台をバンバン叩く。
「嘘つきの星?」
「そうですよ! 恐竜が復活したとか、歴史上の偉人の会談in太平洋とか! 私全部見に行ったのに!」
「朝からバタバタしてるのはそれか……」
コイツは宇宙人。透明な球状の被り物のお陰で移動速度が化け物で、今朝、俺のマンションの窓を突き破って来た馬鹿野郎だ。
「ここの星の人たちは何でこんな無意味な嘘ばっかり!」
「あー今日はエイプリフールだからな」
「……は? 何ですかその奇妙な名前は」
お前の本名ほどじゃないだろ、とクアレコ・アンクレー・ヴェル・サリアンバーに言うと、私の星では貴族しか許されない高貴な名前です! と返ってきた。

「エイプリルフールってのは嘘をついて良い日のことだ。四月馬鹿〜ってな」

宇宙人はしばらく固まって、マゼンタの瞳孔のみを忙しなく動かしていた。そして、ぱち、とまばたきをした瞬間にきらり、と瞳が光る。

「なんて誠実な星なんてしょう!」
「……は?」
「だって嘘をついていい日があるなら、それ以外の日に嘘をつく人はいないのでしょう? 素晴らしいです! 私の星に持ち帰らなくては……」
そう言って端末に何かを入力し始める宇宙人。翻訳機が切れているので、呟きは全くもって理解できない。
ああそうか。そういえば、嘘が許される日は、年に一回なのだ。
【エイプリルフール】
昨日結婚した山田裕貴と西野七瀬が離婚した……っていう嘘をつかれました

4/1/2024, 1:24:54 PM