俺の恋人は財布の紐が割ときつい方だと思っていたんだけれど……。
彼女がガチャガチャの前でいつもとは違った真剣な顔をしていた。
彼女のカバンにはこのガチャが溢れていた。
「ね、ねえ。どれぐらい回したの?」
彼女は俺を見ることもなく凄い顔したままガチャを回す。出てきたボールを開けて中を確認するけれど、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
お目当てが出なかったんだな。
またお財布から小銭を出す。そして一息ついてから彼女は俺の耳元にこっそり金額を教えてくれた。
その金額に俺は冷や汗が流れ落ちる。
「え。いや、もうやめた方が良くない?」
「いえ、ダメです。私、推しは自引きしてナンボだと思うんで!」
「待って待って待って待って、冷静になって」
「でなければ貯金崩します!!」
気のせいだけれど目が血走っているように見える。顔が本気だから絶対にまずい。
「大丈夫です、生活費には手をつけません!!」
彼女、確かにワーカーホリック気味な割に欲しいものが少ないから生活をする以上の金額は全部貯金をしていたから多分それなりに持っているんだと思うんだけれどさ……。
「先に帰りますか?」
「いや、待ってる。一緒にいたいから」
それを伝えた時、少し表情が柔らかくなった。そして俺をしっかり見つめてくれる。
「……あ、あと一万円だけやったらとりあえず……」
「う、うん」
俺と一緒にいたいとは思ってくれたけれど、それでも先が長いよー。
そんなことを考えたけれど、俺がそう言わなければこのガチャを出し尽くすまで回しそうだったから、これでも彼女の譲歩かもしれない。
お金持っている人が沼ると本当に怖いな。
おわり
三六七、まって
5/18/2025, 1:12:02 PM