そんじゅ

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これは夢だ。

そう分かっているから、滝つぼに落ちていく影を見かけても驚きはなかった。きっと昇仙を目指す者が千度の滝登りに挑んでいるのだろう。

これまでも夜ごとの眠りのなかで様々な土地を旅してきたが、仙人の住まう国へ来たのは久しぶりだ。ゆったりと流れる雲の行方を追いながら、金鳳花が揺れる野辺を独り散策する。

穏やかな風に光の粒がきらきらと舞う。ここでしばらくのんびり暮らしてみたいが、ささやかな願いほど儘ならないもの。夢の終わりを告げる不穏な鐘の音が空の上から降ってきた。スマホのアラーム。放っておくと大音量で帝国のマーチが始まってしまう。

さて、この美しい世界が現実に侵略されてしまう前に、こちらからおいとましなくては。
ひとつ深呼吸をすれば意識は一気に浮上する。

おはよう。また新しい一日を迎えられたよ。
旅立ちの夜の訪れまで、今日も丁寧に生き延びよう。


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「落ちていく」

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所感:
特定の一点へと向かっていく抗い難い引力の働きと思えば、落ちていくときも浮上するときも身体に受けるのはよく似た感覚のような気がします。

11/25/2022, 8:32:56 AM