「なあ。平和ってなんだ?」
彼はこの世を全て見透かしたような不気味な目をしていた。
「平和ってのは、争いがない世界だ。戦争が各地で起きている現代が平和だとは決して言えないだろうが、俺は別にそんなスケールの大きい話をしたいんじゃない」
寝転がっていた身体を起こして向き直る。
長い前髪のすき間からギロリと鋭い視線が送られた。
「例えば愛故に争いは起きる。不倫したり二股をかけたり。愛があるから理性という枷が外れてしまう。嫉妬って感情も争いの火種になり得る。そうだろ?」
そうだ。愛に狂わされる人は何人もいる。
そのせいで悲しんだり、憤ったりする。
「全員がロボットみてぇな無機質で無感情な物なら確かに争いは起きないし、平和を体現できたかの知れない。でもそれじゃあ人とは呼べない。彩りがなくてつまらない」
ようするに、と彼は持論を主張した。
「愛と平和は同時に存在できない。そして、愛という感情がなければ俺達人間は生まれないんだ。つまり、完全な平和なんて有り得ない」
争いのない平和な世界なんてただの幻想だ。
「俺は平和じゃなくていいと思う。争いをその都度解決して、それをきっかけに仲を深める。それでいいじゃねぇか。平和ってのは、争いを積み重ねた上にある物だと思うぜ?」
3/11/2023, 4:03:23 AM