「きっと、来世でも私と出会って恋に落ちてね!
約束!」
遠い遠い過去の記憶。
もう顔もぼやけてしまって思い出せない大切な彼女との約束。
僕らは出会って恋に落ち、時を共に過ごした。
彼女が病に冒されて最後のお願いとして言われた約束だ。
ただ、彼女は知らない。
僕がその約束を叶えられない存在であることを。
彼女に最後まで僕のことを話せず、ただ叶えられない約束だけをして彼女と時を違えた。
「懐かしい夢を見たな…」
セミが賑やかに鳴く暑い日の朝、僕は目を覚ましポツリと呟いた。
外は賑やかだが、僕の周りはシンッーと静かだ。
ここは街外れにある神社にある社。
社には神様が祭られる。そう僕は神様だ。
神様である僕は信仰がある限り不老不死である。
夢で見た彼女と最後にあったときから、僕の外見は全く変わらない。
これが彼女との約束を果たせない理由だ。
彼女が記憶を引き継いだまま今世に生まれていたとして、僕と出会ったときに拒絶でもされたら僕はきっとショックで自信を呪ってしまうと思う。
「……暇だし外にでも行こうかな。」
出会えるかどうかもわからない彼女と出会わないように引きこもる選択肢も勿論ある。
ただ、社には娯楽がない。いくら神様だといっても何もしないまま時間がすぎるのを待つのは苦痛なのだ。
「快晴すぎて、眩しいな…」
行き先も決めずに気の向くまま散策してると、ちょうど良さそうな木陰のある公園を見つけた。
誰もいなそうたったので、休憩がてら立ち寄ることにした。
公園は静かで木陰の中はとても心地よく、ここだけ暑さと切り離されたような空間に思えた。
見つけたベンチに腰掛け、目を閉じて耳を澄ます。
時折吹く風が葉を揺らし、葉がサワサワと音を鳴らす。
眠りを誘うような音で目を閉じていたのも加わり、うっかり寝落ちてしまった。
「ぉーぃ………」
意識の遠くで誰かの声がする。
「すいませーん…」
どうやら自分を呼んでいるような雰囲気だ。
意識を引き上げ、ゆっくり目を開ける。
目の前には長い髪を1つにまとめた女性がいた。
「あ、気が付きました??眠ってるかなーとも思ったんですけど、体調が優れないで休んでるのなら手伝えることがあればと思いまして…」
女性は遠慮がちに声をかけた理由を述べる。
なんてことだ。女性はあのときの彼女じゃないか。
いや、正確には彼女の魂を引き継いだ女性、だ。
なんと返せばいいか悩み、当たり障りもない回答をする。
「体調は問題ないので大丈夫です。
お気遣いありがとうございました」
僕の答えを聞いて彼女は安堵する。
「体調不良でないならよかったです!
…あの、不躾な質問で申し訳ないのですがどこかでお会いしたことありませんか?」
ドキリ、とした。頼む。僕のことを拒絶しないでくれ。拒絶するくらいなら忘れていてくれ。
「急にすみません。
なんか、初めて会った気がしなくて…」
「…他人の空似とかじゃないですかね。
少なくとも僕はあなたと面識はありませんよ」
鼓動が早くなる。
頼む。早く立ち去ってくれ。
「んんーー…そうですかねえ…」
彼女は首を傾げて考え込む。
あのときの彼女と考えるときの仕草は同じなのか。
ふと懐かしさを覚えながら、緊張が続く。
「気のせいなんですかね…急に失礼しました。
大丈夫そうなので私はこれで失礼しますね!」
彼女は納得した様で、公園の出口へ向かっていく。
これで、よかったんだ。深く息を吐き出し地面を見る。
彼女の足音が遠のいていく。
一目会えただけで良かったと思おう。
そう納得しようとした。
僕は神様だから。
人と恋には落ちれないんだと再度己に言い聞かせる。
「出会えたから、私と絶対に恋に落ちてね!!
ここからあなたに好きになってもらうために、私頑張るからね!!!」
遠くから大きな声で驚くようなことを告げられ、彼女は走り去っていく。
「えっ…ちょっ、ま」
反射的に立ち上がり、駆け出して行く彼女を追いかける。
彼女は長い長い時間を経て、また僕に会いにいてくれたのだ。
僕の反応を見るために様子をうかがったことはこのあと突き詰めるとして、彼女に追いついて僕のずっと伝えられなかった気持ちを伝えなければ。
僕と巡り会いにきてくれた彼女に、大きな感情をーー
【巡り会えたら】
10/3/2024, 11:56:48 AM