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あやつ何撮ってんの、えーこれはエモいわ、写真家じゃん――。
女子高生の写真フォルダは、かわいいスイーツと友達の写真。
お気に入りのプリクラ、たまにペット。そんなものだと思っていた。

写真部の定期発表、その写真の張替えをしていた。
『とまれの酸化』で標識の錆。今月は『不幸中の幸い』でシリアルミルク。それを話題にしているのが彼女の友人達、きらびやかなJK群。友達の作品だから、それだけの理由でここに立ち止まってみている。
「あ、ここが隠れミッキーってことじゃね!?」
「えマジじゃん! カワイー」
「……」

自分と違う人間を、ほんとうに受け入れるには時間がかかると思う。けっこう。
今が一番楽しい時なのにそんなこともったいないから、彼女達は改めて全部分かろうなんて思わない。
間違ってないと思う。青春ってそんな長くないし。

夕焼けが沈みかける空の地平線と、うろこ雲の隙間がすごく良く見えて、橋の上で立ち止まる。
俺だって俗に言う一軍の彼女のことは住む世界が違うと随分と避けていた。
でもこの景色は、この景色だけは、彼女に見てほしかった。
エモい、綺麗、やばい。単一な言葉じゃ嫌だった。彼女の綺麗な言葉で名付けてほしかった。
カメラを向けて、しっかり収める。

送信ボタンを押して逃げるようにアプリを閉じた。
【あなたに届けたい】2024/01/30
64 69 66 66 69 63 75 6c 74

1/30/2024, 1:37:18 PM