誇らしさがくるりと一転恥辱に変わる。
そんな経験を繰り返すうちに俺は、誇らしさを謙虚さという鎧で用心深く包み隠すようになった。
他人の褒め言葉を額面通り、いやそれ以上に受け取りすぐに有頂天になっていた若い頃の俺はとても無防備だった。それがただ気まぐれに発されただけのものであること。単なる励ましのための定型文であること。或いはあれは正当な評価ではないというという第三者の批判。周りのやっかみや嫉妬。そんなものに気づくたびに、俺の心は冷水を浴びせられたようになり、誇らしさはたちまちしぼんだ。
本気にしちゃ駄目だ。誇らしさだなんて、自分には似つかわしくない。次第にそう言い聞かせるようになった。だってそうすれば、後から傷つかずに済むのだから。
「武藤くん、仕事には慣れてきたかい?」
入社して1か月、エレベーターの中で部長と二人きりになった。
「はい。」
出勤してすぐ、起きてからの第一声だったので返事の声が裏返ってしまう。赤面して部長の様子を窺うと、微笑んでいた。
「こんなに早く来るとは真面目だな。みな初めは早く来るが、続く人は少ないからね。」
「そんなこと、ないです。今日はたまたまで。」
とっさに否定してしまった。まずい、言葉が少し強かったかも。というか「真面目」は褒め言葉なのか微妙だ。そもそも毎日早く来ているし、俺は何で嘘なんかついたんだ…。何で気まずさで目が泳ぐ。
「大事なことだよ」
静かな声に、思わず部長の顔を見上げる。朝の光がガラス窓から射し込んで、彼の輪郭を柔らかく照らしていた。
8/17/2024, 7:32:13 AM