るね

Open App

やや長め。1,000字程度です。
────────────────

【風景】




 僕が旅に出た理由が一枚の絵だと言ったら、君には呆れられてしまうかな。

 その絵は満月が森を照らしている様子を手前の崖から見下ろしたもので、森の中には泉と崩れかけた廃城があるんだ。泉の水面には月が白く映って、その白が森の暗さと無人の城の寂しさを際立たせる、そんな絵だ。

 光の表現が素晴らしいんだ。
 静けさと緊張感、ひんやりとした空気が漂ってきそうな、凛とした雰囲気を持つ絵だったんだよ。

 その絵が実在の風景を描いたものだと知った時、僕はどうしても本物を見たいと思ってしまったんだ。自分でもどうかと思うよ。そんな理由で、こんな場所まで来てしまうなんて。

 魔王が倒されてからもう何年も経ったと言っても、この辺りはまだまだ凶暴な魔獣が残っているし、道らしい道もないから移動も大変だろう。こうして君という案内人を雇って、やっとどうにか旅ができるような場所だからね。でも仕方がない。僕が見たいものはこの先、もっと北にあるんだ。

 大丈夫。僕は優秀な治癒士なんだよ。これでも祖国では聖者と呼ばれていたんだ。欠損の再生もできる。もし、手足をなくしたら言ってくれ。君にはこれから世話になるし、腕の一本くらい生やしてあげるよ。

 ああ。最終的な目的地かい?
 そりゃあ、絵の中の城を見下ろす崖、あの場所に行きたいに決まっている。あの絵を描いた人と同じ視点で同じ風景を見たいんだ。

 え。ここから北に城なんかないって?
 何を言うんだ。あるだろ。ひとつ。
 まさかって。
 ……そう、そのまさかだ。
 魔王城だよ。他に何があると言うんだ。

 僕が見た絵は勇者と共に旅をした剣士が趣味で描いたものなんだ。魔王を倒した直後の風景だったらしいよ。城が崩れかけているのは古いからじゃなくて、魔法使いの大規模攻撃魔法のせいなんだ。

 え、知らないのかい。絵描きの剣聖。僕の祖国では有名人だよ。ああ、剣聖は知っているけど、彼が絵を描くことは知らなかった?

 とにかく、僕が行きたいのは魔王城を見下ろす崖の上だよ。君は案内人としては優秀だと聞いている。ちゃんと連れて行ってくれるよね?

 危険すぎるって?
 わかってるよ。だからほら、護衛もいるじゃないか。僕だって戦えるよ。君のその剣も飾りじゃないんだろう?

 魔王城跡地に竜が棲んでる?
 本当かい?
 それはすごい。ぜひ姿を見てみたいものだ。

 ええ? 何を言ってるのさ、もう前金を渡したじゃないか。報酬は弾んだだろう?

 僕はあの絵の風景を見るために聖者になったようなものなんだよ。ここに来るのは大変だってわかっていたからね。それだけ本気だってことさ。

 大丈夫、即死じゃなければ治してあげるよ。
 その時に僕が生きていたら、ね。
 だからしっかり僕を守ってよね。




4/12/2025, 11:22:19 AM