真小夜

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「落下」


ひらひら

ひらひら

桜の花が落ちてくる。
花びらじゃなくて形を保ったままの花だ。
まだ綺麗なそれを拾って眺める。

白のように見えて仄かにピンク色。
小さな公園にただ1本、生命を青春を春をこれでもかと謳歌している桜の下に私はいる。

「それスズメだよ。」

ふと後ろから声がした。
小脇に黄色いサッカーボールを抱えた少年が立っている。小学校低学年くらいだろうか。

「すごいな、よく知ってるね。」

私はそう言って物識りな少年を褒め称えた。
そういえば、頭上からチュンチュン囀りが絶え間なく聞こえる。スズメが花を落としてたのか…天上の花を下界の者に見せようと落としているのかな…そんな考えを少年が遮る。

「盗蜜って言ってね、スズメは桜の花の根元にある密を千切っては飲んでるんだ。」

「そうなの!?…桜の花ぼとぼと落ちてくるものね。スズメ遠慮なしに蜜を取っているみたい。」

「でも仕方がないんだ。スズメの餌になる虫が少ないから。人間が虫が居る場所に家や道路を建てるから…」

そう言って少年は下を向いた。野球帽のつばで影ができて顔が見えない。

「結局は人間のせい…上手くいかないものね…」

スズメが悪いわけじゃない。人間のせいとはわかっても私に何かできるわけじゃない。

上手くいかない世の中だ。

「でもね。いつか桜もスズメも人間も上手くいくようにするよ!」

顔を上げて少年が言った。
その顔は泣いてなどいなくて、決意に満ちた目だった。自分を未来を信じている目だった。

「おーい!サッカーしにきたぜー!」

公園が賑やかになった。
少年と同じくらいの男の子たちが公園にやってきた。

「うん!じゃあ、またね!」

少年は彼らに向かって走り出した。

「…上手くいくようにする…か。」

誰かが動かないと変わらない。
と、私は桜を見上げた。



『落花』

6/18/2022, 11:17:19 AM