22時17分

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隠された手紙がどこかにあるはずだ。
だからお前には、告発文の在り処を探ってもらう。
隠蔽者は、上層部の面倒な指示で夜の建物に侵入した。
閑静な住宅。影の中に潜むように、そのうちの一軒に用があった。
五万以下の賃貸物件。とある理由により、思った以上に格安の家賃相場となる。

椅子の下、机の下。リビングはすべてハズレ。だが、書斎らしき6畳部屋でビンゴ。
椅子の下に、それは貼り付けてあった。
今時、古くさいことをしてくれたものだ。
隠蔽者は、目当てのものを見つけたことで、少々の安堵の心持ちになった。それをエネルギーに変えて、椅子裏の、1ミリ未満のズレでも感知する指先となった。
セロテープで四方を囲っているようだ。紙とプラスチック、そして椅子の三つの素材の違い。
段差にカリカリと爪を立てて、テープの角を粒立ててそれを足掛かりにする。丸みを帯びる角をくっと摘み、それから破り捨てるように、椅子から手紙を外した。

照明の付いていない部屋の中。か弱き月あかりを頼りに隠された手紙を白日の元へ。
隠蔽者は中身を確認し、独善的な笑みを浮かべた。

急いで部屋から出た。
近場に停めた車に乗り込み、エンジンをかけた。
15分ほどの滞在だった。目撃者はいない、と思いたい。
発車する前に、ライターで火をつけて、手紙を炙る。
火をつけたものを見ながら、名残惜しそうに運転席の窓からポイと捨てた。勢いよく車は駆ける。
道路に転がりながら、置いてきぼりになったそれは黒い粉末になって冷たい風で飛んでいく。

「ごめんな親友」

三回忌の年。
隠蔽者の車種は赤のアルファードだった。

2/3/2025, 9:51:47 AM