ななし

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5.岐路 わき道 黒大
俺が東京に出てきた事で黒尾と過ごすことの出来る時間は前とは比べ物にならないくらい増えた。ただそれでも住居はそこそこ離れているので黒尾が泊まりに来たり、俺が泊まりに行ったりしない限りは夕方には解散しないといけなかった。
秋の暮れ、イチョウの葉が赤く照らされ橙色の絨毯をこしらえている。秋の静けさに人恋しくなったのは先刻のことだ。今は黒尾のバイト先に歩いて向かっている。終わるまであと1、2時間はかかることは知っている。ただ、1人部屋で過ごしていられなかった。ふと目に入った自販機で温かい缶コーヒーを購入して目の前の公園のベンチに腰かける。すぐそこの道路を車が通り過ぎていく。東京も都心から少し離れればそこそこ落ち着いている。普段は心地いい静けさの町から今はなんだかうら淋しい空気が放たれている。もう東京に来て3年になる。今さらホームシックかななんて自己嫌悪に陥りそうになる。どうも今日は気分が沈んでならない。少しぬるくなっているコーヒーをグビっと飲み干すと立ち上がる。辺りはすっかり闇に包まれているが少しは気持ちも晴れたか。とはいえ今からひとりで家に帰る気にもならないので黒尾に連絡を入れバイト先の近くのファミレスで時間を潰すことにする。そのあとは途中まで一緒に家へ帰ろう。こっそり岐路を通ってより多くの時間を共有しよう。こんな自分勝手なことも今日くらい許してもらえるだろう。

6/8/2024, 1:11:37 PM