池上さゆり

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 幼稚園で飛んでいる蝶々を何度も追いかけた。みんな綺麗な花に止まって細い口を伸ばして花の蜜を吸っている。捕まえたくなって、そっと手を伸ばした。閉じた羽を指で挟んで持ち上げる。近づいて眺めても綺麗な模様をしていた。先生に呼ばれてパッと放すと手にキラキラとした粉が付いていた。夢の粉だと僕は思ったけど、先生は鱗粉だと言った。
 それから小学生になって大きな虫籠にモンシロチョウを飼い始めた。狭い思いはしてほしくなかったから一番大きいものをお父さんに買ってもらった。長生きしないことはわかっていたけど、死んでも外に代わりがたくさんいることを思うとそんなに悲しくなかった。
 ある日、眺めるだけの日々に飽き始めていた僕はあの夢の粉を集めてみたいという衝動に駆られた。お母さんの部屋に行くと小さな小瓶があったからこれいっぱいに貯めようと決めた。その日からは外でたくさんのモンシロチョウを捕まえた。一匹ずつ、ピンセットで羽を捕まえて使っていない絵の具の筆で粉を落とした。一年以上かけて小瓶をいっぱいにした時、僕は満足感でいっぱいになった。だけど、その数だけ虫籠はモンシロチョウの死体で埋まった。夢の粉を取られた彼らはなぜか、飛ぶことができなくなった。
 蝶が生きている姿よりも、小瓶に詰められた夢の粉の方がずっと綺麗にみえた。
 虫籠のゴミを庭に捨てた次の日、お母さんに怒られた。なんだか、いろんなことを言われたけどそのほとんどを覚えていない。
 部屋に戻った僕は真っ白でキラキラした夢の粉が詰まった小瓶を眺めていた。次はモンキチョウ、その次はアゲハチョウでやってみよう。夢の粉がたくさん集まったら、きっと僕も蝶になれるんだ。

5/10/2023, 12:52:27 PM