たぬたぬちゃがま

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「私の!限定チョコエクレア!!!」
「わざとじゃない、つい」
「限定!!チョコエクレアッッッ!!!!!!」
「……ごめんなさい」
ぼろぼろと泣く彼女には敵わない。謝罪の言葉を聞いた彼女は泣いた顔を拭きもせずに寝室に駆け込んでいった。後を追ってそっと扉を開けると、時折鼻を啜る音と泣いて引き攣ったような声が部屋を満たしていた。
じんわりと罪悪感が腹を埋めていく。
「……ほんと、ごめん」
「……いや。話したくない」
「あの、買い直すから」
「数量限定。もう無い。ほっといて」
それ以上話しかけてくれるなと彼女の背中が言う。もう近づくことも難しいだろう。それでも、泣いている彼女は放っておくなと自分の頭は叫んでいる。
「これ、代わりといっちゃなんだけど」
スマホで先ほど予約した画面を見せる。有名なショコラティエの店だ。ツテとコネは使えるだけ使った。
「…………」
彼女の沈黙が痛い。許すも許さないも決めるのは彼女だが、悪いのは俺だが、わかってはいるのだが。
「……今日だけ、許して」
ぽつりとつぶやいた言葉に、彼女は目を真っ赤にさせてこちらを向いた。

「予約日の翌日になったら許す」
「ありがとうございます」



【今日だけ許して】

10/5/2025, 9:50:05 AM