[楽園]
昔から、暗くて閉鎖的な場所が好きだった。
机の下とか、布団をすっぽり被ったときにできる空間とか、少し小さな物置とか。
中でも一番のお気に入りは、祖父母の家にある押し入れだ。
木の香りがする優しい場所で、中に入れば少し歪んでるせいで閉め切っていても僅かに光が漏れる。
祖父母はよくその押し入れの中に美味しい菓子を置いてくれて、それを一人で食べるのが小さい頃の楽しみでもあった。
「これで、全部?」
横に積まれた荷物は、想像よりも少ない。
幼い頃は未知が詰まった広大な世界に見えたというのに、時の流れとはつくづく恐ろしいものだ。
今暮らすにはすっかり窮屈になってしまった楽園が、なんだかとても寂しく見えた。
アダムとイブのように追放された訳では無いけれど、二度と戻ってくることもできない。
主も住人も居ない廃れた楽園は、消えるだけ。
4/30/2024, 4:08:57 PM