テーマ「幸せに」
僕はなにかに行き詰まるとあの時のことを思い出す。
親友は病弱で小さい時からまともに学校に行くことができなかった。
そんなあいつの好きなことは絵を描くこと。
病院の窓から見える景色をスケッチしたり…あぁそうだ、本を読んだあとは必ずそれをイメージした絵を描く。
僕も絵を描くことが好きだった。
先生の似顔絵を描いたり好きなアニメのキャラクターを描いたり。
頭の中の言葉で言い表せないようなモヤモヤを絵に描き出してみることだってあった。
…2人は約束をした。
「将来は一緒に絵を描く仕事をしようね」
と。
あの約束から僕はあいつに負けないように必死で絵を描いた。
親友は絵の才能があった。
小学生から絵のコンクールでは賞をとっていた。
それでも「もっとすごい人はたくさんいる」と信じて疑わずに絵を描き続けた。
僕は絵の才能がなかった。
小学生から絵のコンクールに参加していたが1回も賞をとることはなかった。
だから「あいつと一緒に絵を描く仕事なんてできない」と絶望し、絵への熱量を失っていった。
親友は僕が絵への熱量を失っていることを知っていた。
それでも一緒に絵が描きたいからそれを口にすることはなかった。
僕は親友に絵を描いていて欲しかった。
だから絵を描きたくない…なんて言い出すことができなかった。
親友の容態は悪化した。
それは5年前、高校2年生の夏だった。
あまりにも急なことでその時の医術では対応することは出来ずに1時間後、あいつは息を引き取った。
僕はそのことをはっきりと覚えている。
5年前、容態が悪化する10分前の会話のこと。
あいつは僕に「もう絵は描きたくないんだろ?僕は大丈夫だから、好きなことをしなよ。」
そう言った。
親友は罪悪感に満ち溢れていた。
俺は俺の勝手な気持ちで君のことを苦しめていた。
それでも何も気にせずに幸せに生きていて欲しい。
その思いで必死に声を振り絞ったんだ。
「どうか幸せに。」
僕は頭が追いつかなかった。
僕は僕の勝手な気持ちであいつのことを悩ませていなんだろうか。
だからあんな突き放すような言葉を。
「どうか幸せに。」
その言葉はまるで呪いのように頭から離れることはない。
2人は約束を果たすことはできなかった。
俺は君に幸せに生きてほしい。
僕はあいつに絵を楽しんで欲しかった。
このすれ違いさえなければ未来は少し変わっていたのだろうか。
僕は頭から離れないあの言葉の通りに生きることはできているのだろうか。
分からないまま呟いてみる。
「どうか来世では幸せに。」
3/31/2024, 4:22:21 PM