『春風とともに』
別れは唐突に訪れることがある。
森の下生え、花が誰に見られるでもなく咲き、誰に知られることもなく散っていくように。
知る者があろうとなかろうと、風は巡り四季は移る。
この世界が創られ、この森が生まれ、そして幾度風が吹き幾度四季が過ぎたか。
創られるに至らなかった世界はあろう。
そよがなかった風も、始まらなかった季節も、あるのだろう。
芽生えて摘まれた物語のいくつあったことか。語られることのないまま葬られた物語を数えるすべはない。
物語の苗床を奈落に横たえる。
ひとたらぬ語り部がいま口を噤む。
物語が沈黙を押し流せば、からくりのように語り部はまた語る。誰が望まなくとも、語り部自らが望まなくとも。
そして物語がなくとも世界は巡る。
四季はよぎる。春風は幾度でも世界を慰める。
物語の有無にも拠らず。
3/30/2025, 11:49:22 AM