300字小説
美しき人よ
『なんと美しい人だ!』
幼い頃から『政略結婚にすら使えない王女』と呼ばれていた私を見て、宮廷画家が言ったとき、冗談にもほどがあると、思わず吹き出した。
だが
『その理知的な瞳が美しい』
『執務中の横顔が』
『視察に向かう姿が』
その後も彼は私の後を追い、私の絵を描き続けた。
「寛いでいる姿もまた美しい」
「すっかり貴方に乗せられてしまったわ」
褒められるままに弟の側近を務め、その後、辺境伯として僻地の開発に勤しみ、やっと引退して私は今、隠居所の離宮で暮らしている。
「生涯を費やして国の為に務めあげた顔。皺の一本一本までもが美しい」
「はいはい」
思わず吹き出す。今日もカンバスを立て、長年連れ添った画家は絵筆を握った。
お題「美しい」
1/16/2024, 11:57:25 AM