かたいなか

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最近最近、都内某所のおはなし。
お題回収役を藤森といい、花咲き風吹く雪国出身。
このごろの東京は気温が高く、5月というより7月か8月の様相。なんといっても30℃である。
30℃で弱り、35℃でデロンデロンに溶け出す藤森には、ギリギリ平静を装って失敗する気温帯
――要するにこの時期の「sunrise」はエモーショナルな光ではなくジリジリの灼熱地獄なのだ。

と、簡素なお題回収はこのへんにして、本題。
その日も藤森は朝早い時期に職場の私立図書館へ入り、なるべく故意に残業して、
そして、涼しくなってから帰宅したところ。
「はぁ。酷いものだ」
パチン。 部屋の照明を付ける。
故郷から一緒に状況してきた「騎士道」の花言葉、シロバナのトリカブトのために、彼女が弱らない程度の冷房は既に使っている。
「明日も夏日。月曜も夏日一歩手前。
はぁ。 もう、夏じゃないか……」

今日はもう、暑さで疲れてしまったから、
適当に災害用備蓄の缶詰からタレ味の焼き鳥でも出して、それにタマゴなど割って親子丼モドキあたりにしてしまおう、そうしよう。
暑熱披露のため息を吐いた藤森がリビングに、足を進めると、 おや、まさかの来客の影。

「……条志さん?」

藤森のリビングの、壁にもたれかかってチカラなく、見覚えある男性が足を投げ出し、座っている。
背中から肩にかけて包帯など巻いて、腕にもバンドエイド代わりの白が1巻き、2巻き。
準満身創痍とはこのこと。浅く呼吸している。

スパイ映画だの刑事ドラマだの、負傷もののフィクションから抜け出してきたような彼は、かつて昔、名前を「条志」と名乗った。
実際は他にビジネスネームを持っているらしい、
が、あんまり藤森のベランダからチュンチュン進入してくることが多いので、
藤森の印象としては、スズメかカラスである。
実際は何だったか。 ルリビタキ??

「条志さん、」
藤森が条志に近づき、声を掛けると、
条志は条志でスズメかカラスのわりに、視線など鋭利にして、少々記憶がバラバラなのだろう、
低い息遣いで、威嚇などしている。
「条志さん。私です」

あー。混乱してる。あるいは寝ぼけている。
藤森が「自分」を条志に示すために、条志の鼻に自分の右手を差し出すと、
スン、すん。 条志は二度、匂いをかいで、
敵ではないと理解したのだろう、威嚇をやめた。
(ポチかコロ助)
藤森は思った――条志さんはスズメというより、オオカミか柴犬あたりかもしれない。
(でもベランダから勝手に入って来るから、
そこは確実に、スズメなんだよな)

「いつもの『腹減った、メシ』ですか」
だいたい条志が藤森の部屋に不法侵入してくるのは、彼の「妙な仕事」の後であり、だいたい空腹であり、藤森と夕食をともにして、それで少し多めの「お礼」をテーブルに置き帰ってゆく。
理由は敢えて明示しない。条志の仕事とメシの好みと、今回のお題とは無関係である。
「暑くて疲れてしまったので、簡単に親子丼モドキですけれど、それで構いませんか。
条志さん、

条志さん?」

あれ。返事がない。 条志を見れば藤森が来て安心したのか、コテン、寝てしまっている。
「あとで『柚子胡椒茶漬けの方が良い』とか言っても、聞きませんよ、本当に構いませんか」
すぴぃ、すぴぃ。条志は完全に夢の中。
「 はぁ。 」

仕方無い、仕方無い。 ここでお題回収。
小さなフライパンに少しのマヨネーズを落として、油脂がフツフツ溶けたらそこに、生卵を1個。
パカン。 割れば料理界の「sunrise」が、
黄色い太陽と、白い雲とをセットに、コンニチハ。
「タマネギくらいは入れるべきだったかな」

いいや。面倒くさい。 くるくるくる。
藤森は黄色い日の出をトロトロ半熟に崩して、
そこにコケコッコ、タレ味の焼き鳥缶詰めをブチ込んで……やはり色が単調なので、
結局条志に食わせる分では、冷蔵庫のオニオンサラダを炒めて混ぜて、藤森のものより解像度の高い親子丼モドキにしてやったとさ。

5/22/2025, 7:16:14 AM