花弁が風に舞っている。
酷く幻想的なその光景に目を奪われた。
「きれいだ」
ああ、けれど、どうしてか、写真は撮れなかった。
涙が出るほど綺麗なのに、これを残したいと心は叫んでいるのに、体はどうしたって動かない。
「撮らないの?」
隣に立つアイツが俺に言う。
「何でだろうな。撮れねえよ」
俺の返した言葉にあいつは笑う。
「じゃあ俺が撮るかな」
「は?」
「だって勿体ねぇじゃん。こんな綺麗な風景を伝えられねえのはさ。」
「まあ、そうだけど。」
「10年後か、20年後か、もっともっと大人になった時に、酒の肴になりそうな話だしな」
なんて言って、カメラを構えるそいつ。
シャッター音が数度響く空間で、ようやく俺は首から下げたそいつを構える。
カシャ、カシャ
構図を変えて、心のままにシャッターを切る。
フォーカス、シャッター。フォーカス、シャッター。
何度も繰り返し、ようやく満足出来たとカメラを下ろす。
隣にいたはずのそいつは花畑へと駆け出していた。
「そーやって色んな写真を撮って、俺に見せてよ!
俺、お前が撮る写真が好きだから!」
そう言って晴れやかに笑うそいつに
「おう。」
なんて笑って返した、ある夏の日。
9/17/2024, 11:37:01 AM