no.2:遠く…
あたしの心はクッションに詰まった綿よりも軽い。些細なことでちぎれて、飛んで、風に運ばれていく。
ふわふわと漂う思いと頼りない気持ち。
迷子のふりをして時々探しに出かけるけど、飛んでいった心は見つからない。
「チカ、意地を張ってないで先生に謝ったら?」
サトルはあたしのコーヒーカップを手にした。勝手に砂糖をひと匙加えたかと思うと、スプーンで丁寧にかき回しはじめた。
こんなに物静かで優しいのに、サトルが窓際に飾っている絵は殴り書きしたようなタッチで、何が描いてあるかさっぱりわからない。
「本当は教室で習い続けたいんだよね。今の状態を先生に話して、聞いてもらえば落ち着くんじゃない」
サトルは冷めたコーヒーをテーブルに戻した。甘ったるい匂い。……ムカつく。
知らない街に放り込まれても、ささっとスマホで解決できちゃうサトルには理解できるはずない。あたしがどのくらい悩んで、迷子になるのも厭わずに走っていくのか。
だから、いつもサトルを遠く感じる。距離が開いていくのを黙って受け入れるサトルが、怖くて仕方ない。
2/8/2025, 12:07:26 PM