水鶏

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幼い時には難しかった着火をすんなりできるようになったのはいつだったろうか。
蚊取り線香を用意しながら思い起こせば、失敗ばかりが顔を覗かせる。
回転部分が回せなくて泣きじゃくったこと。
線香にうつった火に気を取られて熱くなったライターで親指を火傷したこと。
うつった火を消しきれていなくて、皿の上で小火を起こしたこと(親がすぐに気づいて無事消火された)。
火のつき方が甘く、1センチと減らずにさらに残っていた時の悲しみと言ったら、もう。

回転部を回す。
安い百均ライターから、かしゅ、と火がたちのぼる。
近づけた線香に火がうつって、炎が二重になったらライターはお役御免。
しばらく火のつきが均等になるよう眺めたら、一気に線香を振って、火を消す。
独特な香りと共にふわりと花が開くのを、満足感を持って眺めるまでが線香の醍醐味ではなかろうか。
あえて窓を閉めておけば(線香が室内の蚊を殲滅してくれる効果も狙いつつ)、停滞した煙が柔らかな曲線を描いて広がる。
息のひと吹きでで溶けて無くなるそれを眺めながら、寝る前のひと時を過ごす楽しみが今年もやってきたことが喜ばしくもあり、夜中に耳元にやってきて叩き起こしてくる隣人の訪れを思い物悲しいものでもある。
本格的な夏まで、あと少しである。

6/25/2023, 1:13:32 PM